何もなかったかのように

今更ですが、バンクーバーオリンピックフィギュアスケートの結果と感想です。
今や事件が起きたらすぐに発信できる情報化社会においては、2月のオリンピックの話題というのは相当過去の出来事らしく、オリンピックのネットニュースはほとんど削除されていました。しかも、なんだかんだ言って金メダルが無かったからなのか、前回のトリノ五輪の時よりも、大会終了後の余韻が少なかったような気がします。


私も、今回のオリンピックは、ショートプログラムブライアン・ジュベール選手が何度も転倒し、プルシェンコ選手が銀メダルに終わった時点で、「ああ、私の五輪は終わった・・・。」と思いました。でも、他競技だけど、スノーボードハーフパイプショーン・ホワイト選手には楽しませて頂きました。見せるべき時に見せられる人って本当に凄い。しかも、今現在は彼にしかできない超難易度の技を。あの瞬間、競技がショーに変わりましたよね。ショーンのショー。実況のアナウンサーも良かった。


フィギュアも、スポーツだって言うのなら、あのくらいわかりやすい方がいいと思うんだけどなー。ああいう大技を決めても「技の難易度は高いけど、危なっかしい完成度なので、難易度の低い技を着実に決めた人の勝ち」なんて言っていたら、あの競技があそこまで発展し盛り上がる事は無かったと思う。(似たような事をブライアン・ジュベールも言っていた。)転倒や、両足着氷、または氷に手をついてしまったとかならまだしも、SPとFSの両方で4回転を成功させたプルシェンコが銀なんて、やっぱりジャッジはおかしい。あくまでも優雅さなどの芸術性を重んじるというのなら、オリンピック種目から外して、どこかの劇場でやればいい。


ちなみにロシアのファンの間では「プルシェンコソルトレークオリンピックでは銀メダル、トリノオリンピックでは金メダル、バンクーバーオリンピックではプラチナメダルを獲った。」と讃えられているらしい。今回の問題を「負けたからって文句を言ってるプルシェンコって潔くなくて格好わるい。」のありきたりな一言で済ます人がいるけれど、問題の本質はプルシェンコの個人結果ではなく、フィギュア界の体質や未来がかかっている事なんだってわかっていない人が多い。


ただ、今回の事で、金メダルを獲得したエヴァン・ライサチェック選手が悪く言われるのは気の毒だと思う。かつての彼は4回転を跳んでいたし、跳ぶべきだとも言っていたけれど、足を怪我で痛めてからは成功率が下がり、その結果今の演技に辿り着いたのであって、決して楽な道を選んだ訳ではない。どういう演技を『自分にとっての完璧』と捉え追求するかはその人の自由だ。トリノで金を獲った荒川静香さんも、どちらかと言えばエヴァンよりの選択をした結果の金だったと思う。(ただトリノの時は上位2選手が誰の目にもわかるミス=転倒をしたんだけど)今回の問題は選手ではなくあくまで採点方法やジャッジにあると思う。


そういえば、ジョニー・ウィア選手は一部のアメリカ国民から脅迫をされているそうですね。それがどの程度のものかはわからないけど、そんなに大きな事件になっていないという事は、目的はジョニーを傷つける事ではなく、ゲイを堂々とアピールする事への抗議の意味が強そう。自由の国とか言いながら、アメリカ人の中にはかなり強烈な保守的な人々がいるから。バンクーバーオリンピックでジョニー・ウィア選手はいい演技をしたのに、何故かあの点数の低さ、という結果を見ると、ジャッジの中にも保守的な人がいたんだろうなーと勘ぐってしまいます。


それから、2010靴紐の乱を起こした織田信成選手の当時のコーチ、ニコライ・モロゾフが織田選手に対してどういう態度で接したのかが気になります。「こんな自己管理もできないで何やってんだ!」と怒ったのか、それとも「気がつかなかった自分にも非がある。」と反省したのか。


私は、今回のオリンピックの男子FSの中ではプルシェンコの次に織田選手の演技を楽しみにしていた。どの選手もそうだろうけど、あのチャップリンのプログラムは、コーチや振り付け師が織田選手のキャラクターを考え、彼が一番活きるものを練りにねって創り出されたものだと思う。それを、あんなミスで台無しにしてしまうなんて、オリンピックが終了して数ヶ月経った今でこそ、信成さんらしい苦笑エピソードだと思えるけど、その時は、まともな状態で披露される事すら出来なかったプログラムが可哀想でなりませんでした。だからこそ、当人であるモロゾフコーチの意見が聞きたい。


女子の方は、はっきり言って競技を離れた論争に食傷気味です。唯一、鈴木明子選手が感動しました。鈴木選手の表現力は本当に素晴らしい。笑顔も、「ここは笑顔でアピールしなきゃ。」とプログラムされた人工的なものではなく、心から楽しんで笑っているように見えるのがいい。余談ですが、ゴルファーの石川遼さんも鈴木明子さんの「すごく幸せな4分間だった」というコメントは特に印象に残ったそうです。


Number Web 石川遼が見たバンクーバー五輪。鈴木明子のセリフで考えたこと。より


マスコミも、スポンサーなどの関係があるから仕方がないとは言え、もうちょっと結果を重視して欲しい。私が見たいのは「有名な選手がどうだったか」ではなく、「いいプレーと選手」です。