ある判事の死

 テレビで散々「節電節電!停電しちゃうよ!」と煽り立てているのに、今年も24時間テレビや27時間テレビを放送するんですって!なんかオープニングかエンディングで、神妙な顔して「今年は中止しようって局内でも議論されたんです。でも、被災地の人達に“ぜひやって下さい”って言われて、テレビにできる事って被災地に元気を届ける事じゃないかなって、放送を決意しました!」とか言いそう。人の悲しみもマスコミにかかっちゃ盛り上げ素材の一つか…(涙そして怒)。


 電力の面では、きっと「夜中は電気が余っているから平気」という理屈なんだろうけど、その他の時間だってこの番組やってる間はやっぱり視聴率が上がるんでしょう?もちろん私は見ないけど!


 一番視聴率が上がる=各家庭がテレビや電気をつけている瞬間に電気が落ちればいいのに。あ、本当は電気は足りているから、東電もこの日は電気を落とさないだろうね。見せしめの為に一度くらいは電力を止める事がありそうだけど、きっと他の日にもっていくんでしょう。


 本題。
 以前この日記に、『枝野官房長官の妻子がシンガポールに逃避しているという噂があるが、本人が否定しているし、ガセネタだろう。』というような事を書いたけれど、これは「枝野氏だったらそんな事しないだろう」という気持ちで推測したのではなく、


 「仮にもああいう立場の人(国民には大丈夫だと言っている人)がそういう事をしないだろう。ましてや記者会見でも否定しているんだし。」(キラリン)


 という私なりの価値観であの時はそう書いたんだけど、先日の不信任決議での菅直人の退陣宣言劇での枝野氏の振る舞いを見る限り、家族を犠牲にしてまで、律儀に国民に義理立てをするような人には見えないし、二枚舌三枚舌は平気で使いそうな人だなと思った。


 しかも、妻子を逃避させている事を否定したのは「記事にあるような事実はない」という言い方だったそうで、記事には『妻子』と書いてあるけれど、実際には子供だけだとか、避難先はシンガポールではないとか言いそう。


 今回の大震災の被災地の姿を、戦後の焼け野原状態の日本の姿と重ねる人が多い。だからというわけではないが、この原発事故、そして放射能が飛散している状態でも「大丈夫です」を繰り返す政治家や学者、大手のマスコミを見て、戦後の日本で起きた山口良忠さんという東京地方裁判所の裁判官が餓死した話を思い出した。


 私もその時代に生まれていたわけではないので、自分が知っている限りで説明すると、太平洋戦争で敗戦した日本は焼け野原になってしまったので、食料も物資も足りず、国全体が貧しい状態。ちょうど今NHKの朝ドラで放送している『おひさま』と時代は同じ。


 そのため、必要最低限の食料品や日常品だけが国民に配給という形で国から割り当てられていた。確か『おひさま』の陽子(井上真央さん)も魚の切り身を配給制で貰っていたような気が。


 これらの品を個人でやりとりするのは法律違反だったけど、実際にはこっそりと商売をする人も多かった。そういう売り場は闇市とか闇などと呼ばれ、金銭授受がなく、親戚や知人同士でやりとりするのも違法で、そうして違法に手に入れたものを闇米(やみごめ)などと呼んでいた。(サザエさん参照)


 国が貧しくて物がないからこその配給制なので、配られる食料品は少なく、実際にそれだけで生活していくのは難しく、ほとんどの人が闇で食料品を手に入れていた。


 山口良忠判事も最初は例外ではなく、闇米などを手に入れ食べていた人達の中の一人だったんだけど、判事という立場で闇で食料等をやりとりして起訴された人(食糧管理法違反)を処罰したのがきっかけで、人を罰する自分が闇の食料を食べてはいけないと強く思うようになり、そこから配給されたもの以外を一切口にしなくなり、その結果、およそ一年後に栄養失調で亡くなった。


 この私のざっくりとした説明だけ読むと、なんか無理して自殺行為をした判事さんなのかと思われてしまうけれど、配給された品は食べていたわけで、国が「これだけ食べていれば大丈夫」と言っていた量は食べていたんだし、仮に足りなかったとしても、自分たちで食料を入手したら法律違反で捕まり、しかも自分はそれを処罰する側の人間だったんだから、この人の行為は何一つおかしい事ではない。


 かなりずれた例かも知れないけど、ハリウッド映画『ブラックレイン』の撮影前に自分が命にかかわる病気であると知りながらも、役を降りたくなかったから撮影を続けた松田優作さんのように、自分の職務を全うしたのだと私は思う。松田優作さんだって死にたかったわけじゃなく、撮影を辞めたくなかっただけなんだろう。


 山口良忠判事の話に戻るけれど、国の配給だけで生活した結果栄養失調で亡くなったという事は、その国の基準が間違っていたという事を証明したんだと思う。これはまるで官房長官の「安全です」と同じなんじゃないか。


 福島の住民に「そのまま住んでも大丈夫」「安全です」と言いつつも誰もそこに移住しようとはしない政治家や学者、コメンテーター&キャスターを含むマスコミの人達。(←「安全です」と繰り返し報道したのに、記者たちは即座に逃げていた。)残念な事に、今回の原発事故では山口判事のような人は現れなかった。


 別に「放射能浴びて体を壊せ」と言っているんじゃないんです。だって「安全です」と言っているのは紛れもないこの人達なんだから。心配する国民を「風評被害だ」と責める前に、自分達が家族を連れて移住して見せてくれれば、こんなにわかりやすい安全アピールは無い。