千本ノックの種が実った日

為末大選手にもらい泣き。男子400m×4リレーで第2走者の予定だった金丸選手が怪我で欠場となり、為末大選手が急遽(20分〜40分前!)走る事になった。


為末選手はオリンピックでの出番はかなり前に終えていたので当然調整や準備が不完全で、順位を上げる事はなかったけど、特に離される事もなく、無難に乗り切ったように見えました。


だけどゴールした為末選手は泣いていた。もしかしたら最後かも知れない五輪なのに満足の行く走りじゃなかったから?と私は思ったんだけど、インタビューで出た言葉はそんな個人的な理由じゃなく、「リレーのためだけに来ている選手もいるのに、自分が次のレースにつなぐ事ができなかった。」というものでした。(言葉は違うかも知れないけどそんな意味。)なんという後輩思い。しみじみと痛感するけど、高いレベルのアスリートって体だけじゃなく人間性も鍛えられてる。


それから、これは選手とは関係のない話だけど、為末選手が泣いている場面が写っても、アナウンサーも解説者も「為末が泣いています」と一言も言わなかったのが素敵だった。粋な男たちだ。担当はどの方だったのかなぁ?


本題。
今回の五輪では「団体戦の男子は女子に比べて情けない。」という事を言う人が多い。確かに、成績だけ見るとそう思うけど、でも私は男子バレーボールの試合内容は良かったと思います。特にアメリカ戦。今はまだ歴史が浅いから結果が出ないけど、植田ジャパンは間違ってない!と思います。私には一切の権限はないけれど。


そして活躍中の女子。昨日のソフトボールの試合は凄かったですね。『悲願の金メダル』とよく言うけれど、ソフトボールの場合は正に、宇津木妙子前監督に金メダルをかけさせてあげたい、と中国から帰化してまで日本のチームに入ったけれど、結局果たせず引退した宇津木麗華さんの話とか、これまでも全日本チームには勝利への強い願いを感じさせるエピソードが多い。


もう今回の大会でソフトボールは競技種目から外れてしまう。そんな最後の大会に掛ける選手や現監督や元選手、元監督の思いや、前々日のアメリカ戦&オーストラリア戦からずっと投げ続けている上野由岐子さんの頑張りなど、チラ見程度にもソフトの試合を見た人で、よっぽど嫉妬心などで心の捻じ曲がった人でない限り、日本人なら誰もが彼女達に金メダルをあげたいと祈ったはず。日本のためとかどうでも良い。彼女たちにメダルをあげとくれ!と。


そんな願いが届いたみたいに、日本側のバッターが打てなくても、相手チームにエラーが出たりして、ラッキーな形で塁に出ることができたけど、やっぱり最後の得点力が足りずなかなか点が入らなかった。神様も途中までは手を貸すが、最後はあんたたちでどうにかしないさいよと言っているみたい。でも決勝ではみんな球をよく選ぶようになっていたし、試合を通じて成長しているのがわかった。(数日しか見てないけど)


人それぞれなので色々な意見があると思うけど、私は、宇津木妙子さんが解説で本当に良かったなぁと思った。現役中には1000本ノックなど厳しい指導で有名だった宇津木さんは今、色々な地域の子供達にソフトボールの指導をしています。その指導を私も拝見した事があるのですが、子供相手でも甘くなく、冷静で厳しく長所や短所を指摘する。そんな宇津木さんが、相手チームがボールを打てば「あ゛〜!」と悔しがり、日本チームが先制点のヒットを打てば「やったやったやった!」と反応している。宇津木さんの気持ちが伝わるから、見ているこっちまで気分が盛り上がりました。(ただでさえ興奮しているのに。)そして最後、アメリカのバッターが打った瞬間、カメラがその打球の方向を写す前に「よしっ!」と叫んだので「勝ったんだ!」とわかりました。


新聞の記事によると、今の監督である斎藤春香さんは宇津木さんが監督だった頃の全日本チームのメンバー(つまり教え子)で、この大会の序盤に采配に迷った時には宇津木さんに相談した事もあったそうです。さらに、上野由岐子さんが所属するルネサス高崎というチームの監督も宇津木さんの教え子の宇津木麗華さんで、麗香さんは自分が選手の頃に宇津木妙子さんに金メダルをあげられなかったから、その思いを託して上野さんを育てようと思ったのだとか。(上野さんも宇津木妙子監督時代の全日本メンバー。)


先日、『カンフーパンダ』という映画を観たんだけど、その台詞の中に、桃の種を蒔けば桃の実がなるように、蒔く種の種類は変えられなくても、どう育てるかでその芽の強さは変わってくる、というものがありました。


データだけで見ると北京五輪のメンバーに2人の宇津木さん(妙子・麗華)の名前は入っていないけど、彼女たちが蒔いた種もやっと今立派に実ったんだなぁ、と感じました。植田ジャパンもきっと立派な芽が出る時が来ます。めでたしめでたし。