『風に舞いあがるビニールシート』最終回

ついに終わってしまった・・・。5話だけとは思えない程、強く心に焼きついたドラマでした。最終回の冒頭、面接のシーンに登場した浅利陽介さんの英語の発音がキレイでしたね。この人喋れる人なのかしら。それとも子役から鍛えているから口真似が器用なんでしょうか。もっと他の英語も聞いてみたかった。


自分の選択が悔やまれる点があって、それは最終回を待たずに森絵都さんの原作本を読んでしまった事です。ストーリーを知ってしまうと(しかも放送日の前日なので記憶が鮮明)、映像を見ながら展開ばかりを追ってしまい、そういう目線で見ると、次の展開に進むまでの脚色がまどろっこしく思えてしまうのです。何故、ほんの数日待てなかったのか・・・。でも、ドラマの結末を知った上でもう一度見てみたら、「ドラマはドラマ、原作は原作。」とやっと頭を切り替えて見る事が出来ました。やはり初見はどうしても次の展開を無意識に探ってしまい、本編に集中できず、その他の演出などを見逃す事がある。


私の感想ですが、原作の方がラブストーリー色が強めで、主人公の里佳(吹石一恵)の中でのUNHCRという存在は、ほとんどエドと出会うための接点でしかない印象で、終盤までは里佳自身がUNHCRの職員であるというよりは「世界の危険地域で働く男性と結婚した妻」という意識の方が強いように見えました。


エドの死の状況については、詳しくは書けないけど、原作の方がより現地の危険さを感じます。少女がエドの遺体の下にいつまでもいた理由など、本当はドラマでもその通りに描きたかったのだろうけど、軽めに描いたのは、おそらくその国への配慮なのだろうと思いました。テレビは影響が大きいし、誰でも見られるものだから、できるだけ誤解の無いようにしないとならないのかなと。


このドラマの良い所って、説明がくどくない所で、だからこそ私は自分の自由に都合よく想像し、自分と重ね合わせたりする事で、このドラマの世界がどこかに存在するんじゃないかというくらいのリアルさを感じる事ができたんだと思います。現実はそんなにわかり易い説明に満ちていない。説明がなくても、里佳が築いた幸せな家庭にエドが居心地の悪さを感じたり、楽しく盛り上がっている飲み会などにはわざと顔を出さないとか、平和が当たり前の東京では罪悪感を感じずにはいられないエドの態度を見ると、エドの心をそんな風にしてしまう紛争地の状況がいかに酷いかを察する事ができるし、エドが亡くなったからと言って、一々職員が悲しみで手を止めて涙を見せたりしないのも、日頃から死を覚悟した人たちなんだろうなとわかる。でもちろんこれはドキュメントではなくフィクションドラマなので、「わかりずらいぞ」と不満に思う人の感想が間違っているというわけではありません。あくまで好みの問題です。


ただ、自分で解釈できていたつもりの所が、原作を読んでみたら実は理解できていなかった場面もありました。エドがワニのぬいぐるみ型手袋をしながら寝てしまう場面で、“誰かに肌を触れられていると眠れない”エドに対して、里佳はこそっとエドの手にはめられている手袋をはずし、エドの手に自分の手をはめるように握らせるのですが、それでもエドは起きず、短い間ではあるけれど、エドは里佳の手に触れながら眠る事ができたのです。エドが目を覚ました時に、自分の手に里佳の手がつながれている事に気がついたエドに、里佳が「ワニだと思ったでしょう」と尋ねるのですが、肝心のその台詞を聴きそびれていたのです。だから、その後の展開に対してイマイチ乗り切れていなかったのですが、ちゃんと知ると、もの凄く素敵なシーンだった。もう一回見たい・・・。


キャラクターの描き方もこのドラマの良い所だと私は思っていて、登場人物がドラマの為に臨時で創作された、脚本家の都合いいように物語に合わせて動くコマではなく、どこかで実際に生活している人の日常の一部にピンスポットが当たって、その部分がたまたまドラマになったからこうやってドラマの舞台に上げられているんじゃないか?あの人たちは今でもどこかで頑張っているんじゃないか?という錯覚を抱かせるのです。驚くのが、珈琲にこだわる上司の米倉(佐野史郎さん)が原作に出てこない、ドラマの中で新たに生まれた役柄だった事。厳密に言えば片平なぎささんが演じる神谷も出てこないんだけど、ドラマではあまり出てこなかったリンダがその代わりかなと思えるんだけど、佐野史郎さんの役は姿形もエピソードすらもない。影の番長みたいな重要な存在だったのに。


その他にも里佳の友人(篠原ともえさん、平岩紙さん)などドラマ制作側がオリジナルで作り出した場面やキャラクターって、原作を読んでいなくても何か違和感を感じる事が多いのですが、このドラマには感じませんでした。エドが亡くなった事がわかった後に、友達2人が心配して里佳の職場を訪ねた後に篠原ともえさんが発する一言には涙が溢れました。


全くの推測ですが、この原作をドラマ化するに当たって、脚本を書いた人や物語の設定を考えた人は、相当この原作の世界を読み込んだのではないでしょうか?おそらく、ドラマには登場しない部分まで勉強したような気がします。(または以前から興味があったか)そのくらい気合いを感じるドラマだし、それが見ている私にも伝わり、毎回エネルギーをもらえたのだと思います。心地よく体が痺れる感覚。抱きしめたいくらい愛おしい作品です。