大杉漣さん

 日にちが経ってようやく書けるようになった、大杉漣さんの突然の訃報。テレビ朝日の『緊急取調室(キントリ)』が特に好きで、新作がまた見られたらいいなーと思っていた。代役という方法もあるのかも知れないが、あのドラマは誰一人代役がきかない完璧なキャストだったと私は思う。あんなに押し付けがましくない存在感なのに、いなくなった途端に淋しい気持ちになる人も珍しい。

 放送中だったテレビ東京の『バイプレイヤーズ』も、それまでは毎週楽しく見ていたのだけれど、その後のドラマを見られずにいた。ドラマの前後どちらかに訃報を知らせるテロップが流れるだろう。それを見たら本当に大杉漣さんがもうこの世にいない事が現実になってしまう!(現実なのだが)という恐怖心があり。

 湿っぽくなるから悲しむのは良くない、メソメソと泣くのは良くない、と言うが、その一方で「泣くのは良い事だ」という意見も耳にする。私は大杉漣さんの訃報を悲しむ事もできないどころか「人が死ぬとはどういう事か?」というところまで思考が混乱していたのだが、TBSの『情報7days ニュースキャスター』の番組で、大杉漣さんが生前とても敬愛していたというビートたけしさんが大杉漣さんの事を語りながら泣いているのを見て、それまでザワザワしていた心がすーっと鎮まる感覚を覚えた。「静まる」、ではなく「鎮まる」という字がまさにふさわしい。「泣くのは良い」というのは、自分が泣くだけでなく、人が誰かのために泣くという行為も周囲に良い影響を与えるのかも知れない。少なくとも私はビートたけしさんの涙によって大杉漣さんの「死」を受け入れる事ができた。「いずれ人間は死ぬ。皆に死が訪れる中、大杉漣さんは敬愛する人(この場合たけしさん)が涙するような終焉を迎える事ができたんだな」と。しかも役者仲間に見送られて。

 とはいえ、やっぱり別れは辛い。誰にも死んで欲しくないなーと思う。